MUKU-DATA  葡萄の木

春先に製材した葡萄の木
乾燥する過程で随分と歪みながら水分が抜けていった。
割れ止め処置等何も行わずに、この木の特性も良くわからないまま
製材後に時々様子を眺めていた。

4枚製材したうちの芯に近い1枚は大きく割れが入った。
良く見ると木目はレースウッドのような面白い杢が出ていたので小さな部材に何かなるかなぁ・・・と考えていたが
乾燥すると同時にみるみる材は上下左右に歪み(一応多くの木と同じように木表側にU字に反った)
写真のような状態になっていった。

何も手を加えずに自然に反って歪んだこの姿も悪くはないなぁ・・
これは何かこの曲りを活かした器か何かにしてはどうだろう・・

一枚板の天板やカウンターを普段から仕上げ、納品されていただいているが、
前々から感じていたキレイ過ぎる機械加工された一律の姿に、
少し疑問を抱きつつ最近それが確信へと変わりつつある。

以前都会の家具屋さんで目にした一枚板、
人気の色の濃い材種の板だけが、1600mm / 1800mm/ 2000mm  と長さごとに
キレイに何十枚も整理整頓され、整列させられているようで少し違和感を覚えたこと。

和食割烹のカウンターで(確か内装デザインは店主さん、造作は知り合いの大工さんだったかと思うが)
機械加工とは違った表面の微妙な窪みや端っこ部分の厚みの違い、
カウンター裏側を手で擦ると殆ど仕上げされていないザラザラとした粗い質感・・
それが妙にずっと指先に残っていて気になっていたこと。。

最近、神代杉を納品させていただいたが、DIYでサンダー仕上げするとの事で
粗木の状態のままからサンダー掛けが行われた。
少し上に盛り気味で乾燥した天板は、厚みを修正されることはなくそのままサンダー仕上げされたのですが、
なんだか見た感じも乾燥過程で少し反ってしまった感じも
ごく自然な姿として受け入れることができたし、
もしかしてむしろこっちの方がいいんじゃないか?と思うような仕上がりとなっていた。

一枚板を扱う材木屋の悩みの一つである反りや歪み
木の癖を強引に人の力(機械の力)で真っ直ぐ平らにすること自体、
もしかして仕上げ方として間違っているかもしれないなぁ・・・とまで
最近考えるようになってきた。
当然真っ直ぐでまっ平らは使い勝手もいいし、キレイな杢目が鑑賞性も高い。
もう一つの選択肢として、
支障のない程度の歪み、割れ、反り、こっちはより自然さを感じる事ができる。
きっと人の目は意識できないほどの僅かな曲線も感知しているのだろう。。
人の手や指先は言葉で表現できないほどの
微妙な質感を感じ取ることができるのかと思う。

昨夜は配達やら打合せやらで遅くに事務所へ戻り、
腰を下ろしたカウンター材の上にあったまだ何も加工されていない
この変形した葡萄を何気なく触った瞬間
手から伝わる質感、この曲り加減が妙に心地良くて・・・
肘を置くと座りの良い部分もあったりして・・

なんだぁ?この心地良さは!って
ずっと2時間ほど触ったり眺めたりしていました。
疲れた心身を吸い取って癒してくれるような感覚・・
素直な自分、人に戻れるような感覚・・・
優しい気持ちに戻れるような感覚・・

是非、この何も加工されていない葡萄の木をみんなに触ってほしいとも
思いました。

人が触れる部分に、もしこの曲がったままの質感を組み込むことができれば
本来の自然物である本当の木の良さに近づくことができるんだろうなぁ・・
とも思いました。

追記 2021 6/30
先日デザイン系の仕事をされている方と打合せをしている時、
この葡萄の木を触ってもらい、この木の話をさせていただき、
この用途不明(使い方は自由)な1枚を持って帰ってもらった。
後日、メールと写真が届いた。
運転中に膝にのせて軽く叩いてリズムを刻んだり、
彼女に寄り添ってくれて癒されているらしい、
この写真はその日は事務所で一人仕事だったので家から連れてきて
仕事の合間に肘をのせたりして休憩していたそうです。

用途未確定な、自然に曲がった葡萄の木
例えばファッションに敏感な若者たちが、
この手の自然木をファッションアイテムの一つとして方に掛けたり、
腰に巻いたり、頭にのっけたり・・・
「えっ、それ葡萄?良いじゃん!」
「わたしは林檎の木、良いでしょう?」
「どこで入手したん?」 「教えない。」
って・・
妄想はどんどんと広がっていくのです。。。

身の回りの物で何十年と持ち続けているものってありますか?
例えば皮の製品であったり、椅子であったり、・・
木は使えば使い込むほど、その人に馴染み、その人仕様に変化していきます。
用途未確定なこの葡萄の木も10年、20年、と使い込んでいくと
きっと特別な輝きを放つものへと変わり、
その人にはなくてはならない物へ変化していくように思います。
この中の一枚を私も「マイ葡萄」として傍に置いてみようと思っています。